INFO 病院・クリニックの防犯カメラ、よくある課題とその解決策
ページ情報
本文
病院やクリニックにおける防犯カメラは、不審者対策という一般的なイメージだけでは捉えきれない役割を持っています。
患者や来院者、医療従事者の安全を守ること。個人情報という、特に配慮が求められる情報を扱うこと。そして、設置環境における特有の制約があること。この記事では、病院・クリニックでよく挙がる課題を整理し、それぞれどう考えるとよいかをまとめます。
なお、この記事は人間を対象とする病院・クリニックを想定しています。動物病院やペットホテルは、プライバシーの考え方など異なる点が多いため、別の機会に整理します。
■ 資産・侵入リスクへの対応
病院には、現金や医薬品、医療機器など、守るべきものが集まっています。
【病院荒らし・不審者対策】
病院を狙った侵入や窃盗は、大病院に限らず、小規模なクリニックや歯科医院、薬局でも起こり得ます。夜間や休診日など、人手が薄い時間帯は特に注意が必要です。
出入口には、一般の来院者用と救急患者用を分けて設置するといった考え方もあります。それぞれの動線を把握できるようにしておくことで、不審な出入りに気づきやすくなります。
【薬剤の管理】
病院内には、厳重な管理が求められる薬剤が保管されています。劇薬や麻薬・向精神薬に指定された薬剤が持ち出された場合、重大な事故につながる可能性もあります。薬剤保管庫の周辺は、重点的に監視しておきたい場所です。
調剤カウンター付近では、スタッフと患者双方のやり取りを記録しておくことで、薬の受け渡し時の確認材料にもなります。天井付近から俯瞰する角度での設置が用いられることもあります。
【廊下や共用部の死角】
病院内の廊下は、各部署をつなぐ主要な動線です。ここを監視することで、不審者の侵入経路や移動状況を把握しやすくなります。
また、人目が少ない場所での患者の転倒は、早期発見が重要です。廊下は死角が生まれやすく、夜間には不審者の侵入経路にもなり得るため、広範囲をカバーできる広角カメラや、夜間撮影に対応した機種が適しています。
■ 対外説明・コンプライアンスリスクへの対応
病院・クリニックが扱う情報には、特に配慮が必要なものが含まれます。
【医療・介護分野の個人情報ガイダンス】
個人情報保護委員会と厚生労働省は、共同で「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を策定しています。このガイダンスは、病院、診療所、薬局などを対象に、個人情報の適正な取扱いについて定めたものです。
安全管理措置として、組織的・人的・物理的・技術的な4つの側面から対策を講じることが求められています。入退室管理の実施も、物理的安全管理措置の一つとして位置づけられています。
【病室・処置室の扱い】
個人情報保護法上の手続きとは別に、病室や処置室のような私的な空間では、患者や家族の同意を得たうえで設置することが実務上の前提となります。撮影の必要性とプライバシー保護の要請とのバランスを踏まえた判断が必要です。
設置する場合は、録画範囲や保存方法、閲覧できる人を限定するといった運用ルールも、あわせて明確にしておく必要があります。
ナースステーションについては、更衣室や休憩室、トイレなどのプライベートな空間が映り込まないよう注意が必要です。
■ 設置における配慮
病院・クリニックは、防犯カメラの見た目にも配慮が求められる場所です。
【威圧感を与えない設置】
病院では、患者に威圧感を与えないことが重視されます。ドーム型のカメラや、目立たない機種を選ぶといった工夫が見られます。
【職員のプライバシーへの配慮】
防犯カメラが撮影する対象は、来院者だけではありません。医師や看護師、事務員といった職員の動きも記録されます。カメラの設置を事前に通知しておくこと、更衣室や休憩室など不要な場所への設置を控えること、映像を労働評価の材料に使わないことなどが、配慮すべき点として挙げられます。
■ オペレーション上の課題
日々の運用に関わる課題です。
【救急導線の把握】
救急搬送を受け入れる病院では、救急用の出入口を含めた動線を記録しておくことで、緊急時の状況把握や、後日の対応記録としての活用がしやすくなります。
【AIによる検知機能の活用】
近年のカメラには、映像を解析して特定の状況を自動で検知し、通知する機能を備えたものがあります。人が常時モニターを見ていなくても、必要な場面に気づける状態をつくるための仕組みです。
転倒の検知に対応した機種があります。レンズを3つ搭載し、被写体を立体的に認識することで検知の精度を高める方式のもので、一般的な1つのレンズによる平面的な映像解析とは構造が異なります。高さのしきい値を設定できるため、座っているだけの動作を検知対象から外すといった調整も可能です。検知した際には、接点出力を使って警報装置と連携させたり、管理ソフト上に通知を表示させたりできます。
ただし、この機能は専用の機種で提供されるものです。すでに設置されている一般的なカメラの設定を変更して使えるものではありません。また、カメラの設置高さや傾斜角度を調整する初期設定が必要になります。
このほかに、医療施設で挙げられる検知機能としては、次のようなものがあります。
・徘徊、異常行動の検知(特定のエリアに長時間とどまっている、夜間に廊下を歩いているといった行動を検知して通知する)
・立入禁止区域への侵入検知(指定した区域に人が入った際に警告音や通知を出す)
・混雑の検知、人数のカウント(待合スペースの混雑状況を把握し、案内業務に活かす)
いずれも、常時モニターを見続けるスタッフの負担を軽減することを目的とした機能です。人による確認を置き換えるものではなく、気づくきっかけを増やすための仕組みと考えるのが実態に近いと思います。
【入退室管理との組み合わせ】
薬剤保管庫や事務室、サーバー室など、立ち入る人を限定したい場所については、カメラとは別に入退室管理の機器を組み合わせる方法があります。認証された人に続いて許可のない人が一緒に入る、いわゆる共連れを検知する機能を備えたものもあります。
医療・介護分野の個人情報ガイダンスでは、入退室管理の実施が物理的安全管理措置の一つとして位置づけられています。記録を残す手段として、映像と入退室のログを組み合わせる考え方です。
なお、顔認証を用いる場合、顔の特徴を数値化したデータは個人情報保護法上の個人識別符号に該当します。取得や保管の方法については、通常の映像とは別に検討が必要です。
【インシデント発生時の映像検索】
何かトラブルが起きた際、該当する時間帯の映像をすぐに見つけられるかどうかが実務上のポイントです。日時や検知内容から映像を絞り込める仕組みがあれば、記録を残すだけでなく、実際に使える状態にしておけます。この点については、AIによる検知の仕組みを別の記事で整理しています。
【駐車場の運用】
病院の駐車場は、外来患者の受診状況に応じた料金処理や、混雑の緩和といった運用課題を抱えています。
車のナンバーを読み取り、受診記録と連動させることで、駐車券のやり取りを省略し、料金処理を自動化するといった活用例もあります。この点については、別の記事で整理しています。
■ 無線カメラを検討する際の注意点
病院内でカメラを設置する際、無線方式を検討される場合は、あらかじめ確認しておきたい点があります。
医療機関では、無線LAN(Wi-Fi)が業務システムの一部として利用されており、公的な手引きでも無線LANを対象とした電波の安全利用規程が示されています。一方で、院内には医用テレメータをはじめ電波を利用する機器が複数存在し、電波利用機器に起因するトラブルも報告されています。新たに無線カメラを導入する際は、院内で電波を管理する担当者や委員会との事前の調整が推奨されます。管理外の機器を無断で設置すると、既存の無線通信との干渉につながるおそれがあるためです。
特に、生命維持管理装置や透析装置、輸液ポンプなど、生命に関わる医療機器が置かれている区域については、より慎重な対応が求められます。機器の配置や設置方法について、院内の担当者と個別に相談しながら進めることが望まれます。有線と無線、それぞれの特徴については、別の記事で整理しています。
■ 機器と配線の考え方
「どのカメラを選べばよいか」を判断するための考え方です。
【画素数は「何をどこまで確認したいか」から決める】
カメラの性能を語るとき、画素数だけが取り上げられがちです。しかし同じ画素数のカメラでも、広い範囲を撮れば1人あたりに割ける情報量は減り、狭い範囲を撮れば増えます。画素数だけでは、実際に何が確認できるかは決まりません。
これを整理した国際的な指標として、DORIと呼ばれる考え方があります。映像上で1メートルの幅を何ピクセルで表現できているかを基準に、確認できる内容を4段階に分けたものです。
・検知(人や車両が存在するかどうかが分かる)
・観察(衣服など、その人の特徴的な様子が分かる)
・識別(以前に見た人物と同じかどうかを高い確度で判断できる)
・特定(個人を特定できる)
同じカメラでも、被写体が近ければ特定できる映像になり、遠ければ検知しかできない映像になります。したがって、機器を選ぶ前に「どの場所で、どこまで確認できる必要があるか」を先に決めることが、実務上の出発点になります。
たとえば受付カウンター越しの人物を後から確認したいのであれば高い水準が必要ですが、廊下の端に人がいるかどうかを把握したいだけであれば、そこまでの水準は要りません。すべての場所を最高水準で揃えると、費用も録画容量も跳ね上がります。
【夜間の映り方】
夜間の廊下や駐車場は、照明を落とすことが多く、撮りたい時間帯がいちばん暗いという条件になります。
暗い場所での撮影方式には、赤外線を照射して白黒で撮るものと、わずかな光があればカラーのまま撮れるものがあります。服の色や車の色を後から確認したい場合、白黒の映像では判別できません。何を確認したいかによって、選ぶ方式が変わります。
【配線と電源】
ネットワークカメラは、LANケーブル1本で映像の伝送と給電を同時に行う方式に対応しているものがあります。カメラごとに電源コンセントを用意する必要がなくなるため、建物が大きく配線が複雑になりやすい施設では、工事の手間を抑えられます。
【院内ネットワークへの接続】
既存の院内LANにカメラを接続すること自体は、多くの場合可能です。ただし、医療情報を扱うシステムと同じネットワークに接続してよいかは、別に検討が必要です。
厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、令和5年5月に第6.0版が策定されました。この版では、インターネットと院内ネットワークを分離すれば安全という従来の考え方だけでは対応が難しくなっているとして、内部のネットワークであっても無条件には信頼せず、利用者や操作の内容ごとにアクセスを管理する考え方が示されています。
カメラやレコーダーも、院内ネットワークに接続する機器の一つです。どのセグメントに置くか、外部からの接続をどう扱うかは、院内の情報システム担当者と事前に相談したうえで決める必要があります。
【録画期間と容量】
録画をどれだけ遡って確認できるかは、カメラの台数、画素数、録画の設定、そして保存装置の容量で決まります。一般的には30日から90日程度を目安に設計されることが多いようです。
期間を長くしたい、画素数を上げたいという要望は、いずれも必要な容量を押し上げます。ここも、何をどこまで遡って確認したいかという運用側の判断が先にあり、機器の構成は後から決まります。
■ 台数の考え方
「院内全体にくまなくカメラを付けたい」という発想で進めると、台数も費用もかさみます。一方で、台数を絞りすぎると、確認したい場面を撮り逃すことになりかねません。
目安として、次のような段階で考えることができます。
【出入口と受付・待合室を押さえる】
最小構成です。来院者の出入りと、待合室での状況把握という、基本的な目的に対応します。
【廊下・薬剤保管庫・事務室を押さえる】
出入口だけでなく、院内の主要な動線や、重点的に管理すべきエリアも合わせて記録します。
【複数フロア・複数拠点をカバーする】
病院の規模が大きかったり、複数のクリニックを運営していたりする場合は、台数も増え、遠隔での一元管理も検討対象になります。
どの段階が適切かは、施設の規模や、何を優先したいかによって変わります。現地を確認したうえで、動線と工程を踏まえて設計するのが基本的な進め方になります。
■ おわりに
病院・クリニックの防犯カメラは、不審者対策だけを目的にしたものではありません。薬剤の管理、患者・職員双方のプライバシーへの配慮、救急時の対応、そして病院ならではの設置環境への配慮。それぞれに異なる課題があります。
まずは自院にとって何が課題なのかを整理し、そのうえでどこにどんな機能が必要かを検討することをおすすめします。
株式会社ジェイセキュリティでは、防犯設備士が現地の状況をうかがったうえで、動線や運用に配慮した構成をご提案しております。病院・クリニックの防犯カメラについてお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
■お問い合わせはこちら
※記載の課題と対応の考え方は一般的な整理です。実際に必要な構成は、施設の規模、業態、既存設備の有無などにより異なります。現地確認のうえ判断が必要です。
※個人情報の取扱いに関する解釈は、ガイダンスの更新により変わる可能性があります。最新の情報は個人情報保護委員会・厚生労働省の公表資料でご確認ください。
※法令の解釈は、個別の事案の状況により異なります。具体的な判断については、弁護士等の専門家にご確認ください。
※搭載されている検知機能などは機種により異なります。対応可否については個別にご確認ください。
※AIによる検知機能は、対応する機種でのみ利用できます。検知の精度は設置環境、設置高さ、角度、照明条件などにより変動し、誤検知や未検知が生じる場合があります。人による確認を代替するものではありません。
※顔認証などの生体情報を用いる仕組みの導入にあたっては、個人情報保護法上の取扱いについて事前にご確認ください。
※撮影範囲や画角は機種の仕様により異なります。
※DORIは国際規格IEC/EN 62676-4に基づく指標です。実際に確認できる内容は、被写体までの距離、レンズの画角、照明条件などにより変動します。
※既存のネットワークへの接続可否および構成は、院内のシステム環境により異なります。医療情報システムとの関係については、院内の情報システム担当者にご確認ください。
※録画期間の目安は一般的な設計例です。必要な保存容量は、台数、画素数、録画設定により変動します。
※無線通信機器の導入にあたっては、必ず院内の電波環境管理担当者にご確認のうえ進めてください。
※台数の目安は一般的な考え方を示したものであり、必要台数は現地調査に基づき決定されます。

