INFO 転倒は防げても気づけるとは限らない|カメラによる転倒検知の実務
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工場の通路で作業者が転倒した。倉庫の夜勤で一人作業中に倒れた。バックヤードで従業員が動けなくなった。こうしたとき、問題になるのは二つあります。転倒そのものを減らせるか。そして、倒れた人にどれだけ早く気づけるか。この二つは別の課題です。床の段差をなくし、滑りにくい床材に変え、照明を明るくすれば、転倒は減ります。しかし、それでも起きたときに誰も気づかない、という問題は残ります。
この記事では、後者、つまり「倒れた人に気づく」という部分について整理します。カメラによる転倒検知という機能が、どこまでできて、どこからができないのか。導入にあたって何を決めておく必要があるのか。
■ 転倒は労働災害でいちばん多い
まず、前提となる数字を確認します。厚生労働省が公表した令和7年の労働災害発生状況によると、休業4日以上の死傷者数は135,333人でした。このうち事故の型別で最も多いのが「転倒」で、37,195人。前年から817人、2.2%増加しています。次いで腰痛等の「動作の反動・無理な動作」が22,166人、「墜落・転落」が20,864人です。転倒は、二番目に多い類型のさらに1.5倍以上あります。
業種別の死傷者数は、製造業が26,371人で最多、次いで商業23,128人、保健衛生業19,291人、陸上貨物運送事業15,632人となっています。
【行動に起因する災害が、全体の6割近くを占めています】
令和6年の分析では、死傷災害は転倒、墜落・転落、動作の反動・無理な動作といった労働者の行動に起因する災害が多く、その割合は増加傾向にあり、全体の58%を占めるとされています。また、死傷災害に占める第三次産業の割合は年々増加しており、令和6年には52%を占めています。特に社会福祉施設の増加が著しいとされています。
【背景には高年齢化があります】
休業4日以上の死傷者数は近年増加傾向にあり、その要因として高年齢労働者の労働災害の増加が挙げられています。厚生労働省の資料によると、令和5年の死傷者数135,371人のうち、60歳以上が39,702人。全体の29.3%を占めています。そして、高年齢労働者は他の世代と比べて労働災害の発生率が高く、災害が起きた際の休業期間が長いことも示されています。
■ 対策には「防ぐ」と「気づく」の二つがあります
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。
【防ぐ層】
転倒を減らすための対策です。床面の改修、段差の解消、滑りにくい床材への変更、手すりの設置、照明の確保、通路の整理整頓。いわゆる4S(整理・整頓・清掃・清潔)の徹底や、ヒヤリハット情報の共有もここに含まれます。これらは労働安全衛生の基本であり、最初に取り組むべきものです。カメラを設置しても、床が滑りやすいままであれば転倒は減りません。
【気づく層】
それでも転倒が起きたとき、誰がどれだけ早く気づくか、という話です。倒れた人がすぐに立ち上がれれば問題になりません。問題は、動けなくなったとき、意識を失ったとき、そして周囲に誰もいないときです。
【この二つを混同すると、判断を誤ります】
カメラによる転倒検知は、後者の「気づく層」に属する機能です。転倒を防ぐものではありません。「カメラを入れれば転倒災害が減る」という期待で導入すると、期待と結果が食い違います。正しくは、「転倒が起きたときの発見が早くなる」です。逆に言えば、防ぐための対策を尽くしても、気づく仕組みがなければ被害は大きくなります。両方が必要だ、というのが実態に近いと思います。
なお、カメラにも「防ぐ」側で使える機能がないわけではありません。保護具の未着用を検知する、走っている人を検知して音声で注意を促す、といった使い方です。これらについては、別の記事で整理しています。
■ 「早く気づく」という考え方は、法令にも出てきます
早期発見という考え方は実は既に法令の領域に入っています。
【熱中症では、早期発見の体制整備が義務化されました】
2025年6月1日、改正労働安全衛生規則が施行されました。これにより、一定の暑熱環境で作業を行わせる事業者に対し、次の措置が罰則付きで義務付けられています。
・熱中症の疑いがある労働者がいる場合に、速やかに報告する体制を整備し、周知すること
・熱中症の悪化を防止するための措置をあらかじめ定め、周知すること
厚生労働省の資料では、この改正の趣旨として、熱中症の重篤化による死亡災害を防止するため、熱中症のおそれがある作業者を早期に見つけ、その状況に応じて迅速かつ適切に対処できるようにすることが挙げられています。背景として、職場における熱中症による死亡災害の要因の一つに「初期症状の放置・対策の遅れ」があることが指摘されています。
つまり、一定の暑熱環境での作業については「早期に異常を発見し、迅速に対応するための体制」が法令上求められています。ここでいう一定の暑熱環境とはWBGT値28度以上または気温31度以上の環境下で、継続1時間以上または1日4時間を超えて行われることが見込まれる作業のことを指しています。
【高年齢労働者への措置も、努力義務になりました】
2026年4月1日、改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)が施行されました。高年齢労働者の労働災害の防止を図るため、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理その他の必要な措置を講ずることが、事業者の努力義務とされています。あわせて、厚生労働大臣が指針を定め、事業者やその団体に対して必要な指導、援助等を行えることとされました。
この指針は「高年齢者の労働災害防止のための指針」として公表され、令和8年4月1日から適用されています。従来の「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を踏まえた内容で、次の5つの柱で構成されています。
・安全衛生管理体制の確立(リスクアセスメントの実施等)
・職場環境の改善(ハード面・ソフト面の対策)
・高年齢労働者の健康や体力の状況の把握
・健康や体力の状況に応じた対応
・安全衛生教育
あわせて「高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト」「転倒等リスク評価セルフチェック票」も公表されています。
【努力義務だから対応しなくてよいとはなりません】
努力義務は罰則を伴いませんが、事故が起きた際の判断には影響します。労働災害に関する民事上の責任では事業者が予見できたリスクに対して必要な措置を講じていたかどうかが問われます。指針やチェックリストが示されている以上、高年齢労働者の安全について何を検討し、どのような対策を講じたのかを説明できる状態にしておくことが重要です。
■ 一人作業では助けを呼べません
「気づく層」がなぜ必要になるのか。最も分かりやすいのが、一人作業の場面です。
【呼べない、見つからない】
機械化と省人化が進んだ現場では、広い空間に作業者が一人、という状況が生まれます。夜間や早朝、休日の当番、倉庫の奥、機械室、屋外のヤード。こうした場所で転倒し、意識を失ったり動けなくなったりした場合、本人は助けを呼べません。周囲に人がいなければ、次に誰かが通りかかるまで発見されないことになります。
【発見の遅れが、重篤化につながります】
転倒によって頭部を打つなどした場合には、外見だけでは重症度を判断できないことがあります。熱中症では、初期症状の放置や対応の遅れが重篤化の要因として指摘されています。
【二次災害の可能性もあります】
稼働中の機械の近く、薬品を扱う区域、フォークリフトが通行する通路。こうした場所で人が倒れたまま気づかれなければ、二次的な災害につながる可能性があります。
【転倒か、熱中症か、急病かは、その場では分かりません】
もう一点、実務上重要なことがあります。倒れている人を見つけたとき、それが転倒によるものか、熱中症か、あるいは急病かは、見ただけでは判別できません。カメラが検知するのは「人が倒れた状態」であって、その原因ではありません。逆に言えば、転倒検知という名前ではあるものの、実際には転倒以外の理由で倒れた場合にも反応します。
■ カメラで転倒を検知する仕組み
ここからは、具体的な仕組みの話です。
【立体的に認識する方式があります】
一般的な監視カメラは1つのレンズを使用し、2次元での映像解析を行います。これに対して対応機種では複数のレンズを搭載し、被写体を立体的に認識する方式が採用されています。立体的に捉えることで人がどの高さにいるかを把握できるため、転倒検知の精度向上が期待できるとされています。
【座っただけの動作を、検知から外せます】
実際の現場では、しゃがむ、座る、床の物を拾うといった動作が日常的に発生します。これらをすべて転倒として通知していては、運用になりません。対応する転倒検知機能では、検知の際に特定の高さを除外する設定が可能なものがあります。座っただけの動作など、転倒とは関係のない動作を検知対象から外すことができます。
【検知したら、警報や通知につなげられます】
対応機種では、カメラの接点入出力端子を利用し、転倒を検知した際にサードパーティ製の警報装置などと連携させることが可能です。また、対応する管理ソフトウェアを利用すればリアルタイム映像のモニタリングと、転倒時のポップアップ通知が表示され、管理者が気づきやすくなります。
【設置時に調整が必要です】
設定にあたっては、カメラの高さを基準としたキャリブレーション(校正)の作業が必要です。実際の被写体の高さと、カメラが認識した高さが一致しているかを確認したうえで、検知ルールを設定します。今回紹介しているような立体認識型の転倒検知機能は、対応した専用機種で提供される機能です。一般的な監視カメラであれば、どの機種でも利用できるわけではありません。
また、機器を取り付けて電源を入れれば、そのまま適切に動作するという性質のものでもありません。設置環境に合わせたキャリブレーションや検知条件の調整が前提になります。
■ 導入にあたっての制約
ここは正直にお伝えしておくべき部分です。転倒検知は、対応した専用の機種で提供される機能です。すでに設置されている一般的なカメラの設定を変更して使えるものではありません。今回紹介するような立体認識型の転倒検知機能は、対応した専用機種で提供される機能です。
【設置高さと角度で、精度が変わります】
立体認識の方式は、カメラから見た高さの情報を使います。したがって、設置の高さ、俯角、被写体までの距離が精度に影響します。天井が極端に高い、梁や設備が視界を遮る、対象エリアが広すぎるといった条件では、期待した精度が出ない可能性があります。
【すべてを検知できるわけではありません】
AIによる検知は、条件によって誤検知や未検知が生じます。物陰に隠れた位置での転倒、複数人が重なった状態、照明が極端に暗い環境などでは、検知できないことがあります。人による確認や巡回を置き換えるものではなく、気づく機会を増やすための仕組みと考えるのが実態に近いと思います。
【監視できる範囲は限られます】
1台のカメラでカバーできる範囲には限りがあります。工場や倉庫の全域を検知対象にしようとすると、相応の台数が必要になります。現実的には、一人作業が発生する場所、過去にヒヤリハットがあった場所、人目が届きにくい場所から優先して設置することになります。
■ 検知したあと、誰が動くか
機器の話より、実はこちらのほうが重要です。
【通知が届いても、誰も見ていなければ意味がありません】
転倒を検知して通知が出る。その通知は、誰の手元に届くのでしょうか。事務所のモニターに表示されるだけであれば、夜間は誰も見ていません。管理者のスマートフォンに届くとしても、その管理者が現場から離れていれば、駆けつけるまでに時間がかかります。
【通知先と、対応の手順を先に決めます】
導入時に決めておくべきことは、次の点です。
・通知を受け取るのは誰か(複数人か、一人か)
・受け取った人は何をするか(現場に向かう、他の人に連絡する、救急要請の判断は誰がするか)
・夜間や休日は、誰が受け取るか
・受け取る人が不在のとき、どうなるか
これらが決まっていないと、検知しても対応が始まりません。
【誤検知が多いと、誰も見なくなります】
通知が頻繁に出て、そのほとんどが誤検知であれば、やがて誰も確認しなくなります。これは転倒検知に限らず、あらゆる検知機能に共通する課題です。導入後しばらくは、しきい値の調整と、通知の頻度の確認が必要になります。設置して終わりではなく、運用しながら合わせていく作業が発生します。
【記録としての価値もあります】
即時の対応とは別に、映像が残っていることの意味もあります。どこで、どのような状況で転倒が起きたのか。滑ったのか、つまずいたのか、段差だったのか。これらは労働災害の報告と、再発防止の検討に使えます。ヒヤリハットの共有材料にもなります。「防ぐ層」の対策を考えるうえで、実際に起きた転倒の映像は、最も具体的な資料になります。
■ 従業員を対象にすることへの配慮
転倒検知は、来訪者ではなく従業員を対象にする機能です。この点への配慮が必要になります。
【目的を事前に周知します】
何のために設置するのか、どの範囲を撮影するのか、映像を誰が見るのか、映像をどのくらいの期間保存するのか。導入前に説明しておくことが前提になります。
【安全目的と評価目的を混同しない】
安全確保を目的として導入した映像・検知データを、人事評価など別の目的に利用する場合は、その目的や利用方法について別途整理しておく必要があります。これは記録として残る映像全般に言えることですが、従業員を対象にした検知機能では特に明確にしておく必要があります。目的外に使われるという不信感が生じると、現場の協力が得られなくなります。結果として、安全のための仕組みが機能しなくなります。
■ 補助金が使える可能性があります
設備投資にあたって、活用できる制度があります。
【エイジフレンドリー補助金】
正式名称を「高年齢労働者の安全衛生確保対策補助金」といい、60歳以上の高年齢労働者が安全に働ける職場環境の整備にかかる費用を補助する制度です。厚生労働省が所管しています。令和8年度は予算額が前年度から拡充されており、対象は労災保険に加入している中小企業事業者で、役員を除き60歳以上の労働者が常時1名以上就労していることが条件です。コースが複数に分かれており、リスクアセスメントの実施と、その結果を踏まえた設備・装置の導入等が補助の対象となる場合があります。
【注意点があります】
この制度には、実務上いくつか注意すべき点があります。
・交付決定を受ける前に発注、契約、購入を行った経費は対象外です
・取組がすべて完了する前に代金を支払った場合も対象外とされています
・補助対象は年度ごとに見直されるため、前年度の対象がそのまま継続するとは限りません
・申請受付は期間が定められており、予算に達した場合は期間中でも締め切られることがあります
導入を検討される場合は、発注の前に制度の内容と申請期限をご確認ください。最新の公募要領とQ&Aで、対象となる経費を確認する必要があります。
■ 検討にあたって確認すること
最後に、進め方を整理します。
【1. 「防ぐ」対策が済んでいるか確認する】
床面、段差、照明、通路の状態。これらに課題が残っているのであれば、まずそちらが先です。厚生労働省が公表している転倒等リスク評価のセルフチェック票が、確認の出発点になります。
【2. どこで一人になるかを洗い出す】
検知が必要なのは、倒れても誰も気づかない場所です。時間帯、作業内容、人の配置から、そうした場所を特定します。全域を対象にする必要はありません。
【3. 通知の受け手と対応手順を決める】
機器を選ぶ前に、こちらを決めます。誰が受け取り、何をするのか。夜間はどうするのか。ここが決まらないと、機器を入れても運用が始まりません。
【4. 設置条件を現地で確認する】
天井の高さ、視界を遮る設備の有無、対象エリアの広さ、照明の状態。これらによって、検知の精度と必要な台数が変わります。
【5. 制度の利用を検討する場合は、発注前に確認する】
補助金は交付決定前の発注が対象外です。設置の計画と申請のスケジュールを、あらかじめ合わせておく必要があります。
■ おわりに
転倒対策というと、床や段差の改善が中心になります。それは正しい順序です。ただ、対策を尽くしても転倒はゼロにはなりません。そして、倒れた人に誰も気づかない状況は、対策とは別に存在し続けます。熱中症で早期発見の体制整備が義務化されたのも、高年齢労働者への措置が努力義務となったのも、同じ問題意識からです。
カメラによる転倒検知は、この「気づく」部分を補う手段の一つです。導入によって期待できるのは、気づくまでの時間を短縮することです。従来は次に誰かが通りかかるまで分からなかった状況でも、検知できればその場で通知につなげられます。それだけで対応の初動が変わります。
対応する機種が限られること、設置時の調整が必要なこと、通知先と対応手順を決めておく必要があること。これらは事前に整理しておけば済む話です。機器を選ぶだけでなく設計と運用まで含めて考えれば機能する仕組みになります。
株式会社ジェイセキュリティでは、HIKVISIONの正規販売代理店として、機器のご提案から設置工事、設定までワンストップで対応しております。防犯設備士が現場の状況を確認したうえで、どこに何台設置すれば必要な範囲をカバーできるか、既存の設備をどう活かせるかをご提案いたします。
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※記載の内容は一般的な整理です。実際に必要な構成は、施設の規模、作業内容、既存設備の有無などにより異なります。現地確認のうえ判断が必要です。
※統計は厚生労働省の公表資料に基づく参考値です。集計時点・対象により数値は変動します。
※法令および指針の内容は改正により変わる可能性があります。自社に適用される義務の範囲については、最新の公表資料をご確認いただくか、所轄の労働基準監督署にご相談ください。
※搭載されている検知機能は機種により異なります。転倒検知は対応する機種でのみ利用でき、既存のカメラの設定変更では利用できません。対応可否については個別にご確認ください。
※AIによる検知の精度は、設置環境、設置高さ、角度、照明条件、被写体の状態などにより変動し、誤検知や未検知が生じます。人による確認や巡回を代替するものではありません。
※補助金制度の内容、対象経費、申請期間は年度ごとに見直されます。申請にあたっては、最新の公募要領およびQ&Aを必ずご確認ください。
※従業員を対象とする検知機能を導入する際は、目的の周知など、労務上の配慮についてもあわせてご検討ください。

