INFO その部屋にいま誰がいますか|区画の在室者を把握するという課題
ページ情報
本文
扉が閉まっている区画があります。実験室、機械室、電気室、冷凍倉庫、薬品を扱う保管庫。
いま、その中に人がいるでしょうか。いるとしたら何人でしょうか。誰でしょうか。
外から見て分かる施設は実はそれほど多くありません。名簿に記入する運用にしていても記入漏れや退出時の書き忘れは起こります。入退室管理システムを入れていても、構成によっては把握できていない場合があります。そして、この「分からない」状態が問題になるのは緊急時です。装置を止めるとき、シャッターを閉めるとき、火災で避難するとき、そして中で誰かが倒れたとき。
この記事では区画の在室者をどう把握するかについて整理します。
■ 「誰が中にいるか」は、法令が求めている場面があります
危険な区画への立ち入りについて法令が管理を求めている場面はいくつかあります。ここでは代表的なものとして酸素欠乏危険作業を取り上げます。
【入場時と退場時、両方の人員点検が義務です】
酸素欠乏症等防止規則の第8条は次のように定めています。事業者は酸素欠乏危険作業に労働者を従事させるときは労働者を当該作業を行う場所に入場及び退場させる時に人員を点検しなければならない。
さらに第2項では作業の一部を請負人に請け負わせるときについても当該請負人に係る作業従事者が入場し、及び退場する時に人員を点検しなければならないとされています。
入るときだけではありません。出るときも数えることが求められています。
【監視についても定めがあります】
同規則の第13条はこう定めています。
事業者は酸素欠乏危険作業に労働者を従事させるときは、常時作業の状況を監視し、異常があつたときに直ちにその旨を酸素欠乏危険作業主任者及びその他の関係者に通報する者を置く等異常を早期に把握するために必要な措置を講じなければならない。
この条文について厚生労働省の通達では酸素欠乏危険作業に労働者を従事させる場合に、異常を早期に発見して適切な処置を迅速に行うために監視人を配置すること等の措置を講ずべきことを規定したものであると解説されています。
【「監視人を置く等」という書き方に注目してください】
条文は「監視人を置く等異常を早期に把握するために必要な措置」としています。監視人の配置だけを唯一の手段として規定しているわけではありませんが、具体的にどのような措置が適切かは、作業内容や現場の状況を踏まえて判断する必要があります。
同じ構造は他の作業にもあります。労働安全衛生規則の停電作業では開路に用いた開閉器に施錠するか通電禁止の表示をするか、または監視人を置くこととされています。他の措置を講ずることが著しく困難なときは、監視人を置き作業を監視させることという規定もあります。
【ただし、人を張り付けるのは簡単ではありません】
監視人を配置するということはその作業のあいだ、一人分の人員を監視だけに充てるということです。人手が足りている現場であれば問題になりません。しかし、作業者が二人しかいない、夜間は一人しかいない、複数の区画で同時に作業が進んでいる。こうした状況では監視のために一人を割くこと自体が難しくなります。
そして、監視人を置けない場合に「等」の部分をどう満たすかは事業者が考えることになります。
■ 実際に起きていること
厚生労働省が公開している労働災害事例から二つ紹介します。
【救出しようとした人も倒れた事例】
果物を貯蔵・冷蔵している空気調整冷蔵庫で起きた災害です。庫内は窒素の割合が高く、酸素濃度は常時3〜4%という環境でした。
クレーンの異常を知らせるブザーが鳴り、作業者が検査窓から庫内を見ましたが、状況が把握できませんでした。現場責任者や作業主任者を探しましたが見つからず、独自の判断で庫内に入って被災しています。
さらに、救出に向かった者も被災するという二次災害が起きています。中の状況が外から分からなかったこと、そして判断できる立場の人がすぐに見つからなかったこと。この二つが重なっています。
【知らせようとしたが、届かなかった事例】
アイスクリームを配送する冷凍運搬車で起きた災害です。被災者は保冷用のドライアイスを補充しようと庫内に入り、外気が入らないように自分で中から扉を閉めました。散布を終えて外に出ようとしたところ扉が開かなくなりました。
庫内にあった警報装置を作動させています。車のクラクションが鳴る仕組みでした。しかし同僚2名は店の中で搬入作業をしており、音は届きませんでした。ドライアイスから発生した二酸化炭素で庫内は酸欠状態となり、意識を失いかけたところで約10分後に車に戻ってきた同僚が異常に気づき救出されています。
【共通しているのは「外から中が分からない」ことです】
一つ目の事例では、検査窓から見ても中の状況が把握できませんでした。二つ目では、中にいることを知らせる手段が音だけで、それが届きませんでした。扉が閉まっている区画では、中で何が起きているかは外から見えません。そして、中にいる本人が知らせられる状態とは限りません。
■ 名簿は実態と合わなくなります
在室者の把握として多くの現場で使われているのが名簿と点呼です。
【記入は忘れられます】
入室時に名前と時刻を書く。退室時にも書く。運用としては単純ですが続けるのは簡単ではありません。急いでいるとき、両手がふさがっているとき、短時間の出入りを繰り返すとき。記入は後回しになり、そのまま忘れられます。特に退室時の記入は漏れやすく、名簿上は入ったままの人が増えていきます。
【入退室管理システムでも、構成によっては把握できません】
カードや暗証番号による入退室管理システムを導入していても在室者が分かるとは限りません。入室時に認証し退室時は押しボタンで解錠する構成であれば記録に残るのは入室だけです。この場合、記録上は「入った人」しか分からず、その人がまだ中にいるのか、すでに出たのかは判別できません。
酸素欠乏症等防止規則が入場時と退場時の両方の人員点検を求めているのはこの差が問題になるからです。入った記録だけでは、人員の点検になりません。
【一人の認証で複数人が入れば、数は合いません】
扉が開いている間に複数人が通る、いわゆる共連れが起きれば、認証の記録と実際の人数はずれます。セキュリティの文脈では、これは「権限のない人が入る」という問題として扱われます。しかし在室者の把握という観点では別の問題になります。記録上は1人でも、実際には2人が中にいる。緊急時に1人しか探さなければもう1人は残されます。
【避難のとき、数が合わないことが分かります】
中小企業庁が公開しているBCPの手引きでは緊急時の初動対応としてまず従業員の安否を確認することが挙げられています。
実務としては、避難後に一時集合場所で点呼を取り、逃げ遅れた者がいないことを確認するという手順になります。このとき、名簿と実際の人数が合わなければ、誰かが残っている可能性を検討することになります。しかし、名簿そのものが正確でなければ合わない原因が「残っている」のか「記入漏れ」なのかも分かりません。
■ カメラで人数を数えるという方法
こうした課題に対して、映像から人数を把握するという方法があります。ただし、一般的な防犯カメラを設置しただけで現在の在室者数を自動的に把握できるわけではありません。録画映像から後から確認することと人数をリアルタイムに把握することは別の機能です。
【二つの方式があります】
一つは人数カウント専用のカメラを使う方法です。二つのレンズを備えたカメラを天井に設置し、通過する人を立体的に捉えて数えます。HIKVISIONの説明ではデュアルレンズと組み込みの深層学習アルゴリズムにより、従来型のカメラでは困難だった長期間にわたる正確な集計が可能になるとされています。もう一つはAIカメラの人物検知・顔検知などを利用して、人の通過や存在を把握する方法です。専用機を用意せず、既存の構成に近い形で対応できる場合があります。
【入場可能人数の表示や制限もできます】
管理ソフトウェアと組み合わせることで現在の人数を表示したり、製品やシステム構成によっては現在の人数を表示したり、設定した人数を超えた場合に入場制御と連動させたりすることもできます。また、製品によってはあらかじめ登録した人物を識別し、従業員と来訪者などを区別できる機能を備えたものもあります。作業者と来訪者を分けて数えたい場合に使えます。
これらの機能は、もともと小売店舗向けに開発されたものです。来店客数を数え、入店率を分析し、混雑する時間帯にスタッフを厚く配置する。HIKVISIONの説明も店舗やモールに入る買い物客の人数を算出することで業務改善に役立つという文脈で書かれています。
安全管理のために作られた仕組みではありません。マーケティング用途の機能を別の目的で使うことになります。
技術的には成立しますが、そのまま安全確保の手段として位置づけるには後述する限界を理解しておく必要があります。
■ 入退室管理との組み合わせ
カメラ単体ではできることに限りがあります。
【「何人」と「誰が」は別の情報です】
人数カウントで分かるのは通過した人の数です。カメラが入退場を適切に検知できているという前提では、3人入って1人出たなら、差し引き2人が残っていると判断できます。しかし、その2人が誰なのかは分かりません。緊急時に「中に2人いる」と分かっても、「誰と誰がいる」が分からなければ対応は変わります。
【個人を特定するには、別の仕組みが要ります】
誰が中にいるかを把握したい場合、入退室管理と組み合わせることになります。顔認証によるアクセスコントロールであれば、カードを持たずに個人を識別できます。認証された人に続いて許可のない人が入る共連れを検知する機能を備えたものもあります。
【組み合わせる意味】
入退室管理は「誰が入退室したか」を記録し、人数カウントは「何人が通過したか」を把握します。両方を突き合わせれば、記録上の人数と実際の人数のずれに気づけます。認証の記録は3人なのに映像では4人が通過している。この差が共連れや記録漏れの手がかりになります。ただし、どちらも構成や運用によっては現在の在室者を完全に把握できるとは限りません。
【顔認証を使う場合の注意】
顔の特徴を数値化したデータは個人情報保護法上の個人識別符号に該当します。取得や保管の方法については、通常の映像とは別に検討が必要です。従業員を対象とする以上、導入の目的を事前に周知しておくことも前提になります。
■ 精度と限界
導入を検討するうえでできないことを先に把握しておくべきです。
【数えられるのは通過した人数です】
カメラが数えるのは設定した線を通過した人の数です。長時間そこにいる人、途中で引き返した人、複数人が同時に通った場合の扱いは、条件によって結果が変わります。
【誤差は蓄積します】
入った人数から出た人数を引いて在室者を求める方式では誤差が累積します。1回の通過で1人の誤差が出れば、それはリセットされるまで残ります。長時間の運用では定期的に実際の人数と照合する運用が必要になります。無人になる時間帯があるのであれば、そこでゼロに戻す設定も考えられます。
【設置条件で精度が変わります】
天井の高さ、照明、通路の幅、扉の開き方。これらが精度に影響します。二つのレンズで立体的に捉える方式は設置高さの条件が特に重要になります。
【人による確認を置き換えるものではありません】
在室者の把握はあくまで判断材料です。緊急時に「中に2人いるはず」という情報があっても、実際に確認する行動は必要です。
法令が求めているのは異常を早期に把握することであり、システムを導入すれば要件を満たすというものではありません。どのような措置を講じるかは作業の内容と現場の状況によって判断することになります。なお、ここで紹介するカメラや人数カウントの仕組みが法令上必要とされる人員点検や監視をそのまま代替できるという意味ではありません。
■ 「いないこと」を確認するという使い方
ここまで「誰がいるか」を扱ってきましたが、逆の使い方もあります。
【中に人が残っていないことを確認する】
機械を動かす前、シャッターを閉める前、装置を起動する前、区画を施錠する前。このとき必要なのは「誰がいるか」ではなく「誰もいないこと」の確認です。先に紹介した冷凍運搬車の事例は、まさにこのパターンでした。中に人がいる状態で扉が閉まり、出られなくなっています。冷凍倉庫や冷蔵庫、大型の設備の内部、危険物を扱う区画では、同じ状況が起こり得ます。
【現場によっては「誰がいるか」よりも「誰もいないこと」を確認することが重要になる場面があります。】
在室者管理というと「いること」の把握を思い浮かべますが、日常の運用で使われるのは「いないこと」の確認である場面が少なくありません。作業終了後、施錠前、休憩に入る前。確認する側にとっては「ゼロであること」を確かめられれば十分です。
■ 検知したあと、誰が何をするか
仕組みを入れるだけでは運用は始まりません。
【表示は誰が見るのか】
現在の在室者数を表示する仕組みを入れたとして、それを誰が、いつ見るのでしょうか。区画の入口に表示する、事務所のモニターに出す、管理者のスマートフォンで確認する。用途によって適切な場所は変わります。誰も見ない場所に表示しても、意味はありません。
【異常の判断基準を決めます】
「作業終了予定時刻を過ぎても在室者がいる」「一人しかいないはずの区画に複数人いる」「無人のはずの時間帯に人がいる」。
こうした状態を異常とみなすのであれば、その基準をあらかじめ決めておく必要があります。基準がなければ、表示を見ても気づけません。
【気づいたあとの手順を決めます】
誰に連絡するか。現場に向かうのは誰か。夜間や休日はどうするか。これらが決まっていなければ、把握できても対応は始まりません。
■ 検討にあたって確認すること
【1. どの区画が対象かを絞る】
すべての部屋を管理する必要はありません。扉が閉まっていて外から見えず、中で何かあったときに発見が遅れる場所。まずはそこを洗い出します。
【2. 「何人」で足りるのか、「誰が」まで必要かを決める】
人数だけ分かればよいのか、個人を特定する必要があるのか。ここで必要な仕組みが変わります。
【3. 現在の運用を確認する】
名簿はあるか、入退室管理システムはあるか、退室時の記録は残っているか。すでにある仕組みで何が分かっていて何が分からないのかを整理します。
【4. 表示先と対応手順を決める】
機器を選ぶ前に決めておく部分です。
【5. 現地を確認する】
天井高、照明、扉の構造、通路の幅。これらは図面だけでは判断がつきません。
■ おわりに
扉の向こうに誰がいるか。普段は意識されません。しかし、それが分かるようになると、日々の判断が変わります。
作業を終えて施錠するとき、「たぶん誰もいない」ではなく、確認したうえで閉められます。予定の時刻を過ぎても在室者がいれば、そこで気づけます。避難したとき、全員が出たと言い切れます。
どれも派手な機能ではありません。ただ、これまで感覚で進めていた判断が根拠のある判断に変わります。
法令が入場時と退場時の人員点検を求め、監視について定めを置いているのも、突き詰めれば同じことです。求められているのは人を張り付けることではなく、状況が分かる状態をつくることです。その方法は一つではありません。
株式会社ジェイセキュリティではHIKVISIONの正規販売代理店としてカメラによる人数の把握から入退室管理まで、機器のご提案と設置工事に対応しております。防犯設備士が現地の状況を確認したうえで、どの区画にどの仕組みが必要か、既存の設備をどう活かせるかをご提案いたします。
「閉まった区画の中が把握できていない」「入退室管理は入れているが在室者が分からない」といった段階からご相談いただけます。お気軽にお問い合わせください。
■お問い合わせはこちら
防犯カメラの設置・製品について、お気軽にご相談ください。
▶ AI防犯カメラ設置工事サービス
▶ 防犯カメラ製品・卸販売に関するお問い合わせはこちら
※記載の内容は一般的な整理です。実際に必要な構成は、施設の規模、区画の用途、既存設備の有無などにより異なります。現地確認のうえ判断が必要です。
※法令の解釈および適用範囲は、作業の内容および現場の状況により異なります。自社に適用される義務については、最新の公表資料をご確認いただくか、所轄の労働基準監督署にご相談ください。
※記載の災害事例は、厚生労働省が公開している事例の概要です。
※搭載されている機能は機種により異なります。人数カウントおよび入退室管理の対応可否については個別にご確認ください。
※人数カウントの精度は、設置高さ、照明条件、通路の形状、通行の状況などにより変動し、誤差が生じます。人による確認を代替するものではありません。
※顔認証などの生体情報を用いる仕組みの導入にあたっては、個人情報保護法上の取扱いについて事前にご確認ください。
※従業員を対象とする仕組みを導入する際は、目的の周知など、労務上の配慮についてもあわせてご検討ください。

