INFO 海沿いで防犯カメラが錆びる|塩害対策の考え方
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海に近い施設で、防犯カメラが数年で動かなくなった。設置したときは問題なく映っていたのに、いつの間にか画像が乱れ、やがて起動しなくなった。屋外用の製品を選んだはずなのに、なぜこうなったのか。こうした相談は、沿岸部の工場や倉庫、港湾関連の施設から寄せられます。
結論から申し上げると、沿岸部だからカメラが使えないということはありません。適切な仕様を選び、本体だけでなく取付部や配線まで含めて条件を揃えれば、沿岸部でも使用環境に応じた構成を検討できます。ただし、そのためには「自社の環境がどの程度の水準を必要としているか」を判断する必要があります。この記事では、その判断に必要な知識を整理します。
■ どこからが塩害地域か
まず、自社の施設が塩害の影響を受ける地域なのかどうかという問題があります。
【距離による目安はあります】
公共建築や道路橋の分野では、海岸線からの距離によって塩害地域を区分する考え方が用いられています。国土交通省の公共建築工事標準仕様書では海岸からの一定距離以内を塩害地域として扱っています。道路橋については日本道路協会の指針が塩害対策を必要とする地域を複数の区分に分け、それぞれについて海岸線からの距離を示しています。
つまり、公的な基準においても「海からの距離」は判断の出発点とされています。
【ただし、距離だけでは決まりません】
問題は、この目安が一律ではないことです。飛来する塩分の量は、海岸線の形状、季節ごとの風向き、地形、海抜高さの影響を受けます。同じ距離でも、海に向かって開けた土地と、間に丘や建物がある土地では条件が違います。強い季節風が吹く地域では、内陸まで塩分が運ばれます。台風のあとに、普段は影響のない場所で塩害が観測されることもあります。このため、海岸線から数キロ離れていても強い塩害を受ける場所が存在します。一概に何メートルからと判断することは困難です。
【既存設備の錆は重要な判断材料になります】
では、どう判断するか。建築分野では建設予定地の周辺建物や既存の工作物を観察し、塩害による発錆が起きていないかを調査することが、事前確認として重要とされています。
これは防犯カメラでも同じです。敷地内のフェンス、看板の支柱、配管の固定金具、屋外の分電盤。これらがどう錆びているかを見れば、その場所がどの程度の環境なのかが分かります。既存設備の発錆状況はその場所の環境を判断するうえで有力な手がかりになります。
■ 雨が当たらない場所では塩分が残りやすくなります
ここがこの記事で最もお伝えしたい点です。
【直感と逆のことが起きています】
カメラを屋外に設置するとき、多くの場合は雨がかかりにくい場所を選びます。軒下、庇の下、建物の出っ張りの陰。雨に濡れないほうが機器にとって良いはずだという判断です。しかし塩害地域ではこの判断が裏目に出ることがあります。
塗料メーカーの解説によると、飛来する塩分は、設備の水平面や部材の裏面など、雨水によって流れ落ちにくい部位、いわゆる雨掛かりではない場所に滞留することが多いとされています。海塩粒子は細かく軽いため遠くまで運ばれ、雨が当たらないところに留まる。
屋根材の分野でも同様の指摘があります。屋根など雨の当たる部位では雨によって塩分が洗い流されるが、軒下や軒裏など雨がかかりにくい部位では塩分が洗い流されずに凝縮され、錆が進行することがある。
【雨には付着した塩分を洗い流す作用があります】
海沿いの環境では雨は機器を濡らす厄介なものではありません。付着した塩分を洗い流す役割を果たしています。
雨が当たる場所では塩分は付着してもある程度流れます。雨が当たらない場所では塩分は付着したまま蓄積し、湿度によって溶けて濃縮されます。塩分は水に溶けると電気を通しやすくなり金属の腐食を加速させます。
【カメラで危ないのはこういう場所です】
この理屈を防犯カメラに当てはめると、危険な箇所が見えてきます。
・軒下や庇の下に設置したカメラ
・ブラケット(取付金具)の裏側
・カメラ本体と金具の接合部
・壁面に取り付けた配線ボックスの底面
・支柱に固定した金具の、雨が回り込まない側
電気設備の分野でも定期的に雨水で洗浄される場所は比較的腐食しにくい一方、配管やボックスの支持用ブラケットは汚れが蓄積し腐食しやすい環境になると指摘されています。雨樋の背面や基礎に接している盤のベースなど汚れが蓄積する場所ほど腐食がひどくなる傾向があるなど。既存のカメラが錆びている場合、本体の正面ではなくこうした「裏側」から進んでいることが少なくありません。
■ IP67では腐食は防げません
次に、製品の仕様表示について整理します。
【IP等級が保証しているもの】
屋外用カメラの仕様には、たいてい「IP67」と記載されています。これは防塵・防水の性能を示す等級で粉塵が内部に侵入しないこと、一定の条件下で水中に沈めても内部に浸水しないことを意味します。屋外で使ううえで重要な指標であることは間違いありません。
【IP等級が保証していないもの】
しかし、ここに落とし穴があります。IP等級には腐食への耐性が規定されていません。水が入らないことと金属が錆びないことは別の話だからです。IP67のカメラでも筐体の材質や表面処理が塩分に耐えられなければ腐食します。腐食が進めば、パッキンの当たり面が変形して防水性能が失われ、そこから浸水して故障に至ります。つまり、腐食を放置すると結果的に防水性能も失われます。「屋外用だから海沿いでも大丈夫」という判断が成り立たないのはこのためです。
【腐食を扱う規格】
腐食への耐性を示す指標として、NEMA 4Xという規格があります。これは北米の電気機器の外郭に関する規格で、屋外での防塵・防水を規定するNEMA 4に耐食性を追加したものです。認証試験には塩水噴霧試験が含まれます。
【IP67とNEMA 4Xは別の指標です】
IP67は防塵・防水に関する性能を示すIP等級です。一方、NEMA 4Xは屋外での水や固形物の侵入に加えて、腐食に対する保護も含めて評価するNEMAのエンクロージャ規格です。そのため、IP67だからNEMA 4X相当、あるいはNEMA 4XだからIP67相当と単純に置き換えることはできません。沿岸部で使用する場合はIP等級だけでなく、腐食への対応が明記されているかを別途確認することが重要です。
■ 耐食の水準には段階があります
耐塩害対応と一口に言っても水準は一様ではありません。
【沿岸部などの腐食環境を想定した耐食仕様のモデルが用意されています。】
HIKVISIONにはNEMA 4X規格に対応した耐食仕様のモデルがあります。このシリーズは表面に傷がついた場合でも内部の耐食性が維持される素材構造となっており、沿岸部や潮風の影響を受ける環境での使用を想定しています。防水防塵はIP67、耐衝撃はIK10に対応します。
特殊なカメラを別途手配しなくても標準的なラインナップの中で耐食性のある機種を選べるということです。潮風は届くが直接波しぶきを受けるわけではないという多くの沿岸部の施設ではこの水準で対応できる場合があります。
【より過酷な環境には、専用のシリーズがあります】
一方、常時海水の飛沫を受ける場所、塩分濃度が特に高い環境、化学物質を扱う施設が併設されている場所などでは、さらに上の水準が必要になります。
HIKVISIONには、腐食環境専用のシリーズが用意されています。こちらは筐体に316Lステンレスを使用したモデルなどがあり、耐食性能が具体的な試験条件とともに公表されています。中性塩水噴霧720時間、結露480時間という条件で、塩分濃度の高い沿岸地域や腐食性の高い大気の工業地域での使用が想定されています。試験時間が公表されているかどうかは水準を比較するうえでの手がかりになります。
【金属が常に正解とは限りません】
なお、耐食といえばステンレスを思い浮かべがちですが、選択肢はそれだけではありません。腐食環境向けの製品には316Lステンレスのほか、アルミ合金やポリマー(樹脂)を筐体に採用したモデルもあります。金属は環境によっては腐食しますが樹脂は金属のような塩分による腐食を受けにくい環境によっては樹脂筐体のほうが有利な場合があります。
どの材質が適しているかは塩分だけでなく、紫外線、温度、衝撃のリスクなど複数の条件から判断することになります。
なお、これらの製品は正規販売代理店を通じてお取り寄せいただけます。特殊な仕様のため受注生産となる機種もあり、納期については個別にご確認ください。
■ カメラ本体だけでは足りません
耐食性のあるカメラを選べば終わりとはなりません。
【規格そのものがそう言っています】
NEMA 4Xの規定ではケーブルの挿入口、ファスナー(締結部品)、コネクタの密閉性が不十分な場合、その定格は失われるとされています。システムとして必要な環境性能を確保するには接続部や周辺部材も含めて検討する必要があります。
【実際に問題になりやすい箇所】
現場で確認が必要になるのは次のような部分です。
・取付金具(ブラケット)の材質:本体が耐食仕様でも金具が一般的な鋼材であれば、そこから錆びます。金具が腐食して強度が落ちればカメラの落下にもつながります
・固定用のネジ、ボルト:小さな部品ですが腐食の起点になります。腐食環境に適した材質・表面処理・組み合わせを検討する必要があります。
・ケーブルの引き込み口:配線を通す穴の処理、防水コネクタの仕様。ここから浸水すると本体の防水性能は意味を持ちません
・配線経路と屋外ボックス:カメラだけでなく途中の中継ボックスや電源部分も同じ環境にさらされます
なお、材質の異なる金属を直接接触させるとそれ自体が腐食を進める原因になることがあります。本体・金具・ネジの材質は個別に選ぶのではなく、組み合わせとして検討する必要があります。
【システム全体として揃える】
言い換えれば、耐塩害対応とは製品選定ではなく設計の問題です。カタログでカメラの型番を選ぶだけでは完結せず、取付方法、配線経路、周辺機器まで含めて仕様を揃える必要があります。ここが通常の屋外カメラ選定と異なるポイントです。
■ 設置したあとの維持管理
もう一点、導入前に理解しておくべきことがあります。
【耐食仕様は「錆びない」ではありません】
耐食性のある製品は腐食の進行が遅い製品であって、腐食しない製品ではありません。塩分が付着したまま長期間放置されれば、いずれ影響は出ます。沿岸部に設置された屋外機器では付着した塩分を除去するための定期的な清掃が推奨されるのが一般的です。設置して終わりではなく、点検と清掃を含めた運用が前提になります。
【重点的に見るべき場所】
清掃や点検を行う際、優先すべきは前述の「雨が当たらない場所」です。
・ブラケットの裏側と本体との接合部
・ネジやボルトの頭部
・配線の引き込み口の周辺
・屋外ボックスの底面や背面
雨に当たる正面は実は比較的洗われています。見た目にきれいでも裏側で進行していることがあります。なお、清掃の際は電気部品に直接水がかからないよう注意が必要です。方法や頻度は機器の仕様と設置環境によって変わるため、設置業者に確認されることをおすすめします。
■ 既にカメラが錆びている場合
すでに設置した機器に不具合が出ている場合、次の入れ替えで同じことを繰り返さないための手がかりがあります。
【どこから錆びたかを見てください】
最も重要な情報は腐食がどこから始まっているかです。
・本体の筐体全体が均一に変色している → 環境の塩分濃度そのものが高い可能性
・金具との接合部、ネジ周辺から進んでいる → 部材の材質や組み合わせの問題
・ケーブルの引き込み口周辺 → 防水処理と浸水の問題
・裏側や下面だけがひどい → 雨に洗われない位置に設置されている
原因によって次に取るべき対策が変わります。カメラの機種を上位に変えるだけでは解決しない場合も、設置位置や取付方法を見直すだけで改善する場合もあります。
【設置位置の見直しだけで改善することもあります】
前述のとおり、雨が当たらない位置は塩分が蓄積します。逆に言えば撮影範囲や防犯上の条件を満たせる場合には設置位置の見直しによって改善できるケースもあります。もちろん、撮影したい範囲との兼ね合いがあるため常に可能とは限りません。しかし「機器を高性能なものに替える」以外の選択肢があることは知っておいて損はありません。
【記録を残しておいてください】
入れ替えの際は外した機器の状態を撮影しておくことをおすすめします。どの部分がどう腐食していたか。これは次の設計にとって、最も具体的な資料になります。
■ 検討にあたって確認すること
最後に進め方を整理します。
【1. 現在の環境を把握する】
海岸線からの距離、方角、間に何があるか。そして敷地内の既存設備がどう錆びているか。距離の数字より実際の発錆状況のほうが確かな情報です。
【2. 必要な水準を決める】
標準ラインの耐食対応で足りるのか、腐食環境専用の仕様が必要なのか。ここが最も判断の難しい部分です。過剰な仕様は費用を押し上げ、不足すれば早期に交換することになります。
【3. 本体以外の仕様を揃える】
取付金具、ネジ、配線の引き込み、屋外ボックス。システム全体として仕様を統一します。
【4. 設置位置を検討する】
雨に洗われる位置か、塩分が溜まる位置か。撮影範囲との兼ね合いで判断します。
【5. 維持管理の方法を決めておく】
誰が、どの頻度で、どこを確認するのか。導入時に決めておかないと実行されません。
【図面だけでは決まらない部分があります】
このうち、1と4は現地を見なければ判断できません。図面には海からの距離は書かれていても、風がどちらから吹くか、既存設備のどこが錆びているか、雨がどの面に当たるかは書かれていません。同じ敷地内でも海に面した側とその反対側では条件が違います。
概算のお見積りは図面からでもお出しできますが、塩害地域においては現地を確認したうえでないと仕様が確定しない部分があることは、あらかじめご理解いただければと思います。
■ おわりに
海沿いの施設だから防犯カメラが使えないということはありません。耐食性を備えた製品は標準的なラインナップから腐食環境専用のシリーズまで複数の水準で提供されています。本体だけでなく取付部や配線まで含めて仕様を揃え、設置位置に配慮し、定期的な清掃を行えば、沿岸部の環境に配慮した構成を組むことは可能です。
難しいのは製品を探すことではなく、自社の環境がどの水準を必要としているかを判断することです。そしてこれは既存設備の錆び方という現地にしかない情報から読み取ることができます。
株式会社ジェイセキュリティでは、HIKVISIONの正規販売代理店として、耐食仕様の機器を含めたご提案から設置工事まで対応しております。防犯設備士が現地の状況を確認したうえで、必要な水準と構成をご提案いたします。
「設置したカメラが早く錆びてしまった」「沿岸部での導入を検討している」といった段階からご相談いただけます。お気軽にお問い合わせください。
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※記載の内容は一般的な整理です。実際に必要な仕様は、設置場所の環境、既存設備の状況などにより異なります。現地確認のうえ判断が必要です。
※塩害地域の区分および対策の考え方は、分野ごとに基準が異なります。建築・土木分野の基準をそのまま防犯カメラに適用できるとは限りません。
※搭載されている機能および対応する規格は機種により異なります。対応可否については個別にご確認ください。
※記載の試験条件および性能は、メーカーが公表する管理された環境下での試験値です。実際の耐用年数は、設置環境および外部要因により変動します。
※製品のラインナップおよび提供時期は変更される場合があります。受注生産となる機種の納期については個別にご確認ください。
※清掃および点検の方法・頻度は、機器の仕様と設置環境により異なります。電気部品への注水など、機器の故障につながる作業にはご注意ください。
※既存配線や取付部材を流用できるかどうかは、状態および仕様により異なります。現地確認が必要です。

