INFO カスハラ対策が義務化|録音・録画はどこまで必要?企業が備える「記録」の考え方
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2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策が事業主の義務になります。労働施策総合推進法の改正によるもので、厚生労働省は2026年2月26日に指針を告示し、9月には企業向けのマニュアルを改訂しました。
押さえておきたいのは対象の広さです。企業規模による猶予はありません。パワーハラスメント防止措置のときには中小企業向けの猶予期間が置かれましたが、今回はそれがありません。従業員を雇用していれば10月1日から対応済みであることが求められます。
また、一般消費者に商品やサービスを提供する企業だけの話でもありません。厚生労働省のマニュアルでは顧客等には取引の相手方等も含まれるため、法人や事業者を相手に取引を行う企業も含め、業種・業態を問わずすべての事業主が取り組む必要があるとされています。対応が不十分な場合には都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり得るとも記載されています。
なお、顧客等からの苦情のすべてがカスタマーハラスメントに該当するわけではありません。指針も客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであり、カスタマーハラスメントには当たらないとしています。この記事では義務の内容を整理したうえで、指針が録音・録画をどのように位置づけているのかを防犯カメラの観点から確認します。
■ 何が義務になるのか
指針は事業主が講じなければならない措置を定めています。大きく分けると、次の5つに整理できます。
【一、方針の明確化と周知・啓発】
カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化して、労働者に周知すること。あわせて、あらかじめ定めた対処の内容を周知すること。
【二、相談体制の整備】
相談窓口をあらかじめ定めて周知し、担当者が適切に対応できるようにすること。
【三、事後の迅速かつ適切な対応】
事実関係を迅速かつ正確に確認すること。被害者への配慮の措置を行うこと。再発防止に向けた措置を講ずること。
【四、悪質な事案への対処方針】
特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を行える体制を整備すること。
【五、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止】
相談者のプライバシーを保護する措置を講じること。相談したことを理由に不利益な取扱いをしない旨を定めること。
このうち、記録に関わるのが三番目です。
なお、カスタマーハラスメントに該当するかどうかは言動の内容だけで一律に決まるものではありません。指針は当該言動の目的、行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮することが適当としています。
■ 指針は録音・録画を挙げています
事実関係の確認について指針は次のように記載しています。必要に応じて周囲の労働者からも事実関係を聴取したり、録音・録画等の客観的な証拠を確認したりする等の措置を講ずること。なお、録音・録画等の客観的な証拠を確認するに当たっては個人情報の保護に関する法律等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うこと。
また、対処の内容の例としても、顧客等とのやり取りを録音・録画することが挙げられています。
【初期対応の段階から記録を残すことが想定されています】
厚生労働省のマニュアルにはより具体的な記述があります。対応の過程で顧客等の言動がカスタマーハラスメントであると疑われる場合は、録音・録画、対応記録、時間の計測など、第三者が検証可能な証拠を収集するとされています。つまり、事後の確認だけでなく、その場で記録を取ることが想定されているということです。ただし、法的な義務として定められているのは事実関係を迅速かつ正確に確認することであり、録音・録画はその方法の例として示されているものです。
【類型ごとの対応例にも出てきます】
マニュアルには言動の類型ごとの対応例が示されています。そこにも記録に関する記述があります。性的な要求や労働者のプライバシーに関わる要求については、録音・録画による証拠を残し、事実確認を行い、警告を行うこと。侮辱的発言や名誉毀損、人格を否定する発言については、後で事実確認ができるよう録音すること。
いずれも、記録を用いて事実確認を行う対応例が示されています。
■ 裁判例ではあらかじめ定めた対応ルールが判断材料になっています
マニュアルには裁判例が2件紹介されています。
【対応が不十分とされた事例】
保育園に勤務する保育士が保護者による虐待疑惑の追及等を含む一連の騒動によって業務上強度の心理的負荷を受け、うつ病を発症して自殺するに至ったとして、相続人が保育園を経営する社会福祉法人に損害賠償を請求した事案です。
使用者としては保育士の心身の健康状態に留意し、心理的負荷が過度に蓄積しないよう注意すべき義務を負っていたところ、その対応が十分でなかったとして、安全配慮義務違反が認められたとされています。
【対応を行っていたとされた事例】
一方、責任が認められなかった事例もあります。コールセンターで勤務していた従業員が、視聴者からの電話対応でわいせつ発言や暴言等を受けたとして、運営する法人に損害賠償を請求した事案です。
この法人は対応手順のマニュアルを作成・周知しており、わいせつ電話については転送指示を待たずに直ちに上司へ転送すること、同じ日の2回目以降のわいせつ電話は担当者の判断で即切断してよいこと、大声が出されるような場合はヘッドセットを外したり転送したりしてよいことが認められていました。
こうした事実関係を踏まえ、従業員の心身の安全を確保するためのルールを定めて対応を行っていたとして、安全配慮義務違反は認められなかったとされています。
【裁判例から読み取れるポイント】
二つの事例には事案の内容や経緯に違いがあります。そのうえで後者ではあらかじめ対応ルールを定め、従業員に周知したうえで対応していたことが、判断の一つの要素となっています。あらかじめ対応ルールを定め、従業員に周知しておくことの重要性を示す事例といえます。
■ 「時間の計測」という項目
マニュアルの証拠収集の記述には録音・録画や対応記録と並んで、時間の計測が挙げられています。
これは拘束的な言動への対応と関係しています。
マニュアルでは長時間にわたる居座りについて、対応できない理由を説明したうえで膠着状態に至ってから一定時間、30分程度を超える場合はお引き取りを願う、それでもなお30分程度、膠着状態に至ってから計1時間程度帰らない場合には毅然とした態度で退去を求めるという対応例が示されています。
ただし、この時間はあくまで一例であり、具体的な対応時間は業種・業態も踏まえて各企業で検討のうえ決定すべきであるとされています。また、身の危険を感じた際はためらわず警察への通報や警備員への連絡をすることが重要であり、定めた対応時間に達しないと次のステップに進めないわけではないとも記載されています。
【記録との関係】
経過時間を後から確認するという点では、映像の記録が役立つ場面があります。ただし、対応した時刻を記録しておくだけでも足ります。ここはカメラがなければできないという性質のものではありません。
■ 「職場」も「顧客等」も範囲が広い
対象の広さについてもう少し具体的に見ておきます。
【職場】
事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指します。通常就業している場所以外であっても、業務を遂行する場所であれば含まれます。指針は取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等を例として挙げています。
【顧客等】
顧客、取引の相手方、施設の利用者のほか、今後購入や取引をする可能性がある者も含まれます。指針が挙げている例には取引先の担当者、契約締結に向けた交渉の担当者、施設・サービスの利用者およびその家族、そして施設の近隣住民が含まれます。
【対面に限りません】
指針は店舗および施設等において対面で行われるもののみならず、電話やSNS等のインターネット上において行われるものも含まれるとしています。つまり、店舗のレジ前だけの問題ではないということです。電話、訪問先、取引先とのやり取り。それぞれに記録の方法が異なります。
■ 撮る側と撮られる側
もう一点、触れておきたい記述があります。指針が挙げる社会通念上許容される範囲を超えた言動の典型例に盗撮や無断での撮影をすることが含まれています。精神的な攻撃の一つとして位置づけられているものです。
従業員が撮影される側になる場面があるということです。あわせて、SNS等のインターネット上へ労働者のプライバシーに係る情報を投稿することも典型例に挙げられています。なお、事業者が防犯カメラで顧客等を記録する場合と顧客等が従業員を無断で撮影する場合とでは、問題となる法的・実務的な論点が異なります。
■ 記録があれば足りるということではありません
ここは明確にしておく必要があります。義務として定められているのは先に挙げた措置です。録音・録画はそのうち事実関係の確認の場面と対処の内容の例として挙げられているにすぎません。方針を明確化して周知すること。相談窓口を定めること。担当者が適切に対応できるようにすること。悪質な事案への対処方針を定めること。研修を実施すること。
これらは記録では代替できません。
【記録が担えるのは事実確認だけではありません】
指針が求めているのは事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認することです。その手段の一つとして、録音・録画等の客観的な証拠を確認することが挙げられています。裏を返せば、記録がなければ当事者の記憶に頼って確認することになります。
あわせて、再発防止の措置としても記録は関わります。マニュアルには事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報の取扱いに留意して関係部門に共有し、再発防止に活用することも考えられるという記述があります。先ほどの裁判例で問われたのは、ルールを定めて周知していたかどうかでした。記録は、そのルールに沿って対応した結果を残すためのものです。
■ 記録を残す際に確認すること
記録の方法を検討する際、確認しておきたい点を挙げます。
【一、どの場面を記録するのか】
店舗の窓口なのか、電話なのか、訪問先なのか。場面によって、必要な手段が変わります。映像で残すのか、音声なのか、対応記録なのか。防犯カメラは映像を残す手段ですが、窓口でのやり取りの内容まで確認する必要がある場合には、音声の記録に対応しているかどうかも確認することになります。
【二、個人情報の取扱い】
指針にもマニュアルにも、録音・録画に当たっては個人情報保護法等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うことと記載されています。撮影の目的、掲示の方法、保存期間、閲覧できる範囲など、社内であらかじめ運用方法を整理しておくことが重要です。掲示と目的の明示については、別の記事で整理しています。
・防犯カメラと個人情報保護法|設置前に押さえる基本と顔識別機能付きカメラの注意点
【三、誰が確認できるのか】
相談者のプライバシー保護は、指針が定める措置の一つです。記録を誰が閲覧できるのかを決めておく必要があります。権限の考え方については、別の記事でも整理しています。
・防犯カメラの遠隔監視でできること|導入前に確認しておきたい点
【四、どれだけ遡れるのか】
相談が事案の発生直後にあるとは限りません。相談窓口に申出があった時点で、該当する場面が残っているかどうかが問われます。保存期間の考え方については、別の記事で整理しています。
【五、従業員への説明】
店舗や窓口のカメラは、顧客だけでなく従業員も映します。設置の目的をあらかじめ伝えておくことが、運用上は重要になります。店舗における考え方については、別の記事で整理しています。
【六、映像を外部に提供する場合】
事案によっては、警察への通報や、弁護士への相談に至ることがあります。映像の提供を求められた場合の考え方については、別の記事で整理しています。
■ おわりに
カスタマーハラスメント対策は2026年10月1日から事業主の義務になります。義務の中心は方針を定めて周知すること、相談体制を整えること、事実関係を確認して適切に対応することです。そして指針はその事実確認の手段として、録音・録画等の客観的な証拠を挙げています。
記録があると、対応の進め方が変わります。何が起きたのかを当事者の記憶ではなく事実として確認できる。相談を受けた担当者が、状況を把握したうえで判断できる。悪質な事案で警察や弁護士に相談する際の材料になる。そして、対応した経緯を記録として残せます。
もちろん、記録があれば義務を果たせるわけではありません。方針の明確化も、相談窓口も、研修も、記録では代替できません。裁判例で問われたのも、あらかじめルールを定めて周知していたかどうかでした。難しいのは記録を残すこと自体ではなく、自社のどの場面で何が必要かを見極めることです。店舗の窓口なのか、電話なのか、訪問先なのか。場面によって必要な手段は変わります。
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※記載の内容は一般的な整理です。自社において必要な措置の内容は、業種、業態、事業の規模、職場の状況により異なります。
※法令、指針およびマニュアルの内容は改正により変わる可能性があります。最新の情報は所管官庁の公表資料でご確認ください。
※本記事は制度の一般的な解説を目的としたものであり、個別の事案における法的判断を示すものではありません。具体的な対応については、専門家にご相談ください。
※録音および録画にあたっては、個人情報の保護に関する法律等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱う必要があります。
※搭載されている機能は機種により異なります。音声の記録への対応可否については個別にご確認ください。

