INFO 農業現場に防犯カメラは必要か|鳥獣被害・盗難・見回り負担への現実的な備え
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「畑にカメラを付けても意味があるのか」——農業現場での防犯カメラ設置について、そう考えられる方は少なくありません。広大な農地をすべて監視することはできませんし、そもそも電源のない場所も多い。
しかし近年、農業現場でカメラを導入する動きは着実に広がっています。背景にあるのは、鳥獣被害の拡大、盗難被害の深刻化、そして人手不足による見回り負担です。今回は、農業現場における防犯カメラの必要性と、導入を検討する際の考え方を整理します。
■ 鳥獣被害は、増え続けている
農林水産省の統計によると、令和6年度の野生鳥獣による全国の農作物被害は、次のとおりです。
・被害金額:188億円(前年度から24.0億円の増加)
・被害面積:4万4千ha(同4千haの増加)
・被害量:73万t(同22万tの増加)
獣種別に見ると、シカが79億円(前年度比+9.0億円)、イノシシが45億円(同+8.2億円)、ヒヨドリが8億円(同+4.7億円)と、いずれも増加しています。被害額そのものもさることながら、注目すべきは金額・面積・被害量のすべてが前年を上回っている点です。対策が追いついていない状況が、数字に表れています。
■ 農作物・農機具の盗難も現実的な脅威
鳥獣被害と並んで深刻なのが、盗難です。農林水産省は「農作物の盗難の実態と対応策」というパンフレットを作成し、対策を呼びかけています。行政が啓発資料を出す程度には、常態化した問題だということです。
2025年に報道された事例を挙げます。
・九州の梨農園:収穫直前の梨を木60本分、数千個が一夜で盗まれる
夏の主要収入が断たれ、経営していた会社は破産、従業員は全員解雇となった
・東北のさくらんぼ農園:高級品種約200kg(100万円相当)が、収穫前の実を軸ごともぎ取られる形で盗まれた
・長野県:収穫前のスイカ約600個(約120万円相当)が一晩で消えた
・新潟県:ぶどう計30房が、同じ地域の畑から断続的に盗まれた
狙われやすいのは「高価な作物を、露地の畑で育てているケース」です。被害は収穫直前に集中します。1年の手間が、一晩で失われる構造です。農機具についても、農林水産省のデータでは、2021年から2023年にかけての盗難被害のうち27%が農地に放置された状態で発生しています。また、被害の35%は車内にキーを放置した状態でした。
盗難被害には、もう一つ厄介な性質があります。農地という環境の特性上、いつ盗まれたのかが特定しにくく、被害が表面化しにくいのです。「気づいたときには終わっている」という状況が、対策を難しくしています。
■ 課題は「防犯」だけではない
農業現場でカメラが検討される理由は、被害への備えだけではありません。
農林水産省のスマート農業実証プロジェクトでは、自動水管理システムの導入により、水管理に要する時間が平均80%減少したという結果が出ています。裏を返せば、それだけ圃場の見回りに時間が費やされているということです。
・圃場が複数箇所に分散していて、巡回に時間がかかる
・水の入り具合を確認するためだけに、往復している
・高齢化と人手不足で、見回りに人を割けない
こうした状況では、「現地に行かずに状況を確認できる」こと自体が価値を持ちます。防犯カメラは、盗難や鳥獣を監視するためだけの装置ではなく、圃場の様子を遠隔で確認する手段としても機能します。実際、農業現場でのカメラ活用は、防犯と省力化の両面から検討されるケースが増えています。
■ 農地にカメラを設置する際に、まず整理すべきこと
農地は、オフィスや店舗とは条件が大きく異なります。導入を検討する前に、次の点を整理しておく必要があります。
【何を確認したいのか】
目的によって、必要な画角・台数・設置位置が変わります。
・侵入経路を特定したい → 獣道や出入口など、通過が避けられない場所に絞る
・盗難を抑止したい → 見える位置に設置することで、抑止効果を狙う
・生育状況を確認したい → 作物が判別できる距離と画質が必要
・水位や設備の状態を見たい → 対象物が明確に映る画角が必要
「畑全体を映したい」という要望はよくいただきますが、広く映せば1つひとつは小さくなります。何を判別したいかを決めることが、設計の出発点です。
【電源と通信の状況】
ここは現場によって大きく異なります。
・自宅や作業小屋に隣接した圃場であれば、有線での配線が可能なケースがあります
・ビニールハウスは、換気・暖房などで電源が来ていることが多く、条件としては比較的整っています
・集落に近い農地では、既存のWi-Fi環境を利用できる場合があります
・一方、山際の圃場や離れた田んぼでは、電源も通信もないケースがあります
電源がない場所については、ソーラーパネルと蓄電池を組み合わせた構成や、SIMカードによるモバイル通信に対応したカメラといった選択肢があります。ただし、日照条件や電波状況によって成立するかどうかが変わるため、現地の条件を確認したうえでの判断が必要です。
「農地だから必ずソーラーと無線になる」というものではありません。有線が引けるなら、その方が安定性もコストも有利なケースは多くあります。
■ 鳥獣被害対策としてのカメラの役割
鳥獣被害において、カメラの価値は「犯人を捕まえる」ことではありません。対策の精度を上げることにあります。
・どの獣が来ているのか(シカとイノシシでは、有効な柵の高さも構造も違います)
・どこから侵入しているのか(柵の設置位置や、補修すべき箇所が特定できます)
・いつ来ているのか(時間帯が分かれば、対策のタイミングを絞れます)
これらが分からないまま柵を設置しても、効果は限定的です。実際、電気柵は有効な対策ですが、万能ではありません。果樹園など強い誘引物がある場所では、柵を押し倒して侵入されることもあると指摘されています。
侵入経路と獣種を把握したうえで、柵の仕様や設置位置を決める。カメラの記録は、そのための判断材料になります。
また、被害の記録は、行政への報告や補助金申請の根拠としても使えます。「被害を受けたが証明できない」という状況を避けるためにも、記録は有効です。
【農作業中の安全という観点】
鳥獣被害は、農作物の損失だけの問題ではありません。近年は、農作業中の人身被害も問題になっています。
特にクマについては、環境省・農林水産省・警察庁・国土交通省・林野庁による関係省庁連絡会議が設置され、「クマ被害対策施策パッケージ」が策定されるなど、国として対策が強化されています。農林水産省からも、農業現場におけるクマ類の出没および人身被害防止に関する通知が出されています。
クマによる農作物被害額そのものは、シカ・イノシシと比べれば小規模です。ただし東北・北海道・中部山岳・北陸など、生息域と重なる地域では現実的な脅威です。被害は秋(9〜11月)に集中し、果樹など高単価品目での被害単価が大きいとされています。
出没状況をカメラで把握できれば、作業に出る前の判断材料になります。「今朝、この時間帯にこの場所に出た」という情報があるかないかで、対応は変わります。なお、当社ではAIによる動物検知に対応したソリューションについてもご紹介しています。詳しくは関連記事をご覧ください。
AIクマ検知ソリューションのご紹介
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■ 屋外・農地特有の設置上の注意点
農地への設置には、建物への設置とは違う配慮が必要です。
・支柱の強度:農地には取り付けられる壁がないため、支柱を立てるケースが多くなります。風の強い場所では、支柱の強度と基礎が重要です
・風雨・積雪:屋外常設のため、防塵防水性能は必須です。積雪地域では、雪の重みや落雪への配慮も必要になります
・獣による破壊:カメラや配線が動物に接触・破壊されるケースがあります。設置高さやケーブルの保護を考慮します
・広範囲を少ない台数でカバーする設計:農地は面積が広いため、台数を増やせば際限なくコストが上がります。通過点を押さえる、あるいは首振り・ズームが可能な機種で範囲をカバーするなど、設計で解決する余地があります
・電源・通信の確保:前述のとおり、現場条件に応じた構成の検討が必要です
■ 補助金制度の活用
鳥獣被害対策については、国の交付金制度があります。
農林水産省の「鳥獣被害防止総合対策交付金」は、市町村が作成する被害防止計画に基づく取組を支援する制度です。鳥獣の捕獲、被害防除、生息環境管理などが対象で、支援内容には「ICT等新技術の導入」が含まれています。交付率は定額または2分の1以内などとされています。
ただし、この制度は市町村や地域協議会が実施主体となる仕組みであり、個々の農家が直接申請するものではありません。地域として取り組む場合の選択肢として、市町村やJAへの確認が入り口になります。また、自治体独自の防犯カメラ設置補助金が利用できる場合もあります。制度の内容・上限額・申請時期は年度や自治体によって変わるため、最新の情報は各自治体にご確認ください。
■ 「全部は守れない」という前提から始める
農地は広く、予算には限りがあります。すべての圃場に、すべての角度からカメラを設置することは現実的ではありません。
重要なのは、優先順位をつけることです。
・被害が実際に発生している場所
・高単価の作物を育てている区画
・人や車が必ず通る出入口
・農機具や資材を保管している場所
こうした箇所から押さえていくことで、限られた予算でも効果を出せます。「全体をなんとなく映す」より、「重要な場所を確実に押さえる」方が、結果として役に立つ映像が残ります。
■ ご相談について
農業現場へのカメラ設置は、圃場の条件、電源・通信環境、監視したい対象によって、適切な構成が大きく変わります。
「うちの畑でも設置できるのか」「電源がない場所はどうすればいいのか」といった段階からのご相談も承ります。また、農業分野で防犯カメラ事業の展開をご検討されている事業者様・団体様からのお問い合わせにも対応しております。
▶ お問い合わせはこちら
▶ 法人向け防犯カメラ機器の卸販売について
https://jsecurity.jp/wholesale/
※記載の統計データは、農林水産省をはじめとする公的機関の公表値に基づく参考値です。最新の数値は各発表元をご確認ください。
※盗難被害の事例は報道等に基づくものです。
※補助金・交付金制度の内容および要件は、年度・自治体により変更となる場合があります。適用可否については各自治体にご確認ください。
※設置可能な構成は、現場の条件(電源・通信環境、日照条件、電波状況、設置場所の構造等)により異なります。詳細は個別にご相談ください。

